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平戸が見てきたイスラエルのハイテクスタートアップの魂


イスラエルと言えば、テクノロジーの最先端の国という印象の人は多いだろう。

もちろん技術力は相当のものである。特にヘルスケアなどの分野では技術が発展しており、カプセル内視鏡や体内をイメージ化する3D センサーなど、素人はびっくりしてしまうようなインパクトの強い技術が数多く発表されている。

しかし、アドテクなどのデジタルマーケティング関連ではどうか。

実はイスラエルにしかない目新しい技術というのはそんなに多くないのではないかと感じている。と言うのも、色々と会社の紹介を受けるが、「これは絶対日本にはない!」と目が点になるようなことはそう頻繁にないからだ。

ただその中に、これは日本人だったら思い つかないなあというコンセプトのものがあったりする。

私の知る限り、イスラエルのハイテクスタートアップの真髄は技術そのものだけではない。発想力と突破力、そして速い開発スピードにこそある。

発想力とブレイクスルーの突破力

壁にぶち当たってもその壁を壊し、突き進む。

こうしたタイプの人は、日本でも起業家と呼ばれる人の中にたしかに存在する。しかし、イスラエル人はもっと極端で、珍しいどころか普通の人にもこうしたマインドが根付いているのだ。

具体的な例をあげよう。

私にとって家族とも言うべき、バイバー・メディアの創業者で元CEOのタルモン・マルコ氏は、まさにイスラエルの起業家のカリスマの一人だ。(写真向かって右端に写っているのがタルマン氏)

3社も成功させているすぐれた起業家であるとともに強烈な個性が魅力の人物で、彼にまつわる刺激的な逸話は数知れない。そんな彼の活動には、イスラエル人らしいマインドがよく表れていると思う。

タルモン氏の事業は、いつも既存の枠組みや規制の厳しい業界への挑戦である。既成概念や固定観念を真っ向から崩しにかかるものが多い。

まず、バイバーの前に手がけていたのはファイルとメディアのトランスファーサービスだった。米国のナップスターと同じように、インターネット業界に著作権問題で殴り込みをかけたようなものだ。

ここでピア・トゥ・ピアサービスの面白さを感じた彼らは、そこに自由なコミュニケーションというコンセプトをつけてスピンアウトする形でバイバーを創業する。

そのバイバーは、国や通信業界の規制や個人情報の取り扱い、更には表現の自由や知的財産権など広範囲に及ぶルールの壁にぶつかる。当時、私も法務責任者という立場で関わっていたが、これはなんとも骨の折れる仕事だった。

さらにその後は、新事業のタクシー配車サービス「JUNO」でUBERなどの競合が活動するニューヨーク市場に進出して成功している。幸運なことに私は彼らの身近にいて、そのプロダクト形成や開発の取組やスピード感を肌身で感じることができた。

JUNOのドライバーへ株式を渡すという風変りで斬新なモデル、マーケティングコストをかけずにサプライ側もユーザーも獲得する手法、また売却金額の大きさまですべてが見事で、圧巻としかいいようがなかった。

これらの過程で学んだのは、彼らの視点が常に「どうすればやりたいことが実現できるか」に向けられているということ。ルールを搔い潜るというマインドに触れる中で、私自身も「規制があるからダメ」ではなく視点やアプローチを変えていくことができるようになった。

カリスマ起業家を例に挙げたが、彼だけに言えることではない。規制にテクノロジーやビジネスモデルで立ち向かうという発想は一般人にも広く浸透している。イスラエルで彼らと接していて驚いたことの一つだ。

スピード重視の開発スタイル

そしてイスラエルのスタートアップは、スピード重視、効率性重視だ。とにかくベータ版を完成させるとすぐに世に出す。問題が出てきたらその都度その問題にとりかかると言う考え方で、先ずは前進する。

日本はこの逆で、先ずはリスク分析やビジネスケースをしっかり吟味した上で、ようやく進める。

商談でデモンストレーションの最中にフリーズしてしまい、慌てて連絡すると 「わかったわかった。直しておくよ」なんてさらりと言われてしまう。

仕様書も細かなものを作った上で進めるわけではないので、取引する日系企業から詳細なものの提出を求められて、ありませんと返答せざるを得ないこともしばしば。

開発のスピードは体制にも起因している。

とにかく無駄を嫌うイスラエルハイテク企業の人たちは適材適所により効率よく開発に力を注ぐ。また、外部委託をうまく活用しており、旧ソ圏の国々にいるエンジニアとうまく安価に連携して開発にあたっている。内製化を好む日本企業とは真逆である。

過去に多くの旧ソ圏に散らばっていたユダヤ人コミュニティーで形成されているイスラエルでは2~3割近いエンジニアがロシア語を話す。これもうまく外部委託が機能している秘訣である。

バイバーも創業者兼元CTOのイゴール・マガジニック氏によってベラルーシと連携し、運用されていた。

イスラエルと日本のビジネスマッチングの可能性

イスラエルの製品を日本企業に売ろうとすると常識や価値観の違いがどうしても目につく。

先の例のように未完成の機能を売り込まれた場合、それでも即決する日本企業は少数派だ。どちらかといえば、正式リリースを待って再検討というのが大方の判断だろう。

また、イスラエルのハイテクスタートアップでは細かな仕様書を作る習慣がない。これは日本企業の商慣習では考えにくいことで、だいたい揉める原因になる。

反対にイスラエル企業から見た日本企業は、意思決定が遅いという印象をもたれがちだ。

また、成約したとしても「日本の窓口は導入することがゴールで、製品を1割も使いこなせていない」と担当者がこぼすのもよく耳にした。彼らが仕様書を細々作成しないのは、時間の無駄だからである。

頻繁にアップデートされる開発プロセスでは非効率だし価値を感じないのも当然である。

選定基準や求める品質、製品の可能性をどこまで引き出すか。それらに認識の齟齬や期待値の乖離があるため、表面的なやり取りではうまくいかないのだ。

しかし、互いのズレを理解した上できちんと対話できたならどうだろう。

イスラエルは国内市場が小さいため海外市場への進出は当然だが、米国とヨーロッパ市場しか見ていないのが現状である。

アジア市場は二の次、あるいは視野に入っていないと言っても過言ではない。そのため日本市場は、面白いプロダクトの輸出先として大きな可能性を秘めているのだ。

一方、日本にはオープンイノベーションと騒がれているものの独創的なプロダクトがなかなか生まれないという課題がある。

テクノロジーのみならず、イスラエルの0から1を作り上げる豊かな発想力や起業家精神を輸入することで、今までにない化学反応が起きるだろう。

私はそれこそが今日本に必要とされているものと信じている。両国の文化やビジネスを知る一人として、その橋渡しに貢献したい。


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