プロダクトを知りたければ、自分で使い倒せ!【イスラエルとの縁 -4-】
イスラエルでの日々を振り返るにあたり、バイバーのような尖ったイスラエルスタートアップの中に入り込むことについて、もう少し話しておきたい。
表面的な付き合いでは決して見えてこない、スタートアップで働く上での心構えとも言える話である。
バイバーは圧倒的なギーク集団
バイバーに入った私が一番面食らったのは、彼らがとにかくプロダクトが大好きなギーク集団だったことである。
イスラエルのハイテクスタートアップの人たちは、ほぼ例外なくプロダクトについて議論するのが大好きである。バイバーの創業メンバーも年がら年中プロダクトに関する議論に熱中していた。
この議論は英語で行われるので、ネイティブレベルの英語力でもない限りついていくのは大変である。実際、日本サイドから表面的なプロダクト議論や要望を持ちかけて、現地サイドからこてんぱんにされる様子を何度も見た。
私もプロダクトを理解しこの議論に参加するにはどうしたらよいか、頭を悩ませた。
これに関してタルモンによく言われたのは、「分からないから資料を見せろ、打合せをして説明をしろというのではなく、とにかくプロダクトを使って、使って、使い倒せ。」ということだ。
当時はWhatsappの買収などでメッセージングアプリへの関心が加熱していた時期である。20も30もあるメッセージングアプリについて、それぞれ何がどう違うのかを皆がこぞって知りたがっており、私も社内外の人からさんざんこの質問を受けていた。
そこでメッセ業界の事をもっと包括的に知るためにどうしたら良いか、バイバーの人達に相談したのだ。ところが、誰に相談しても「とにかく自分で使ってみろ」と取りつく島もない。内心、説明するのが面倒くさいのかなとか、実はあんまり知らないんじゃないかと思ったりもした。
とにかく自分で使え。その心は?
しかし、それにはちゃんと意味があったのだ。後々分かったことだが、タルモンの考えは、各アプリを使い倒して、どんな違いがあり、何に優位性があるのかを自分で感じ取り、自分の言葉で説明できるようになるべきだというものだった。
どのメッセージアプリが重いか?
もっとも音声の品質がいいのはどれか?
つながりやすさではどれが一番か?
操作性が優れているのはどれか?
コンテンツが豊富なのはどれか?
ユーザーはどんな人たちか?
そもそも優れた機能性とはどういうものか?
……こうした疑問に自分の言葉で答えられるようになるには、自らはまり、あらゆる国の人たちと使ってみることが必要なのだ。結局、メッセージアプリについて包括的に理解するために、20種類近くのアプリを使いこむことになった。
CEO自ら莫大な時間とお金をかける
なお、これはメッセアプリに限った話ではない。タルモンと海外へ行くたびに、EC、トラベル、運送など、関心のあるビジネス分野に関するあらゆるアプリを使い、体で理解を深めたものだ。
とにかく莫大な時間とお金をつかった。タルモンと諸国を飛び回っていた時期、バイバーでゲームを出そうと画策していたことがある。そのときも、やりこんでみないと分からないということで、CEO自らゲーム中毒になっていた。
飛行機に一緒に乗っていても、2人して徹夜でオンラインゲームをやっていたくらいだ。そのゲームを皆にやらせるにはどうしたら良いか、ゲームの中でお金を課金させるにはどうしたら良いか、自分達が中毒になり、お金と時間を投資する事で議論することができた。
このように、CEO自らプロダクトに熱中していたのだ。
プロダクトを知らずに改善の議論はできない
このように、イスラエルのハイテクスタートアップでは、誰もがプロダクトについて深く理解し、真剣に考えているのが当たり前である。
そんななかで、どこかから引っ張ってきた表面的な知識だけでプロダクト改善の議論をしたところで、彼等が言う事を聞くわけもない。これは特に新機能の開発やローカライゼーションのところで顕著に表れる。
「こういう新機能を作ってくれ」とか「こういうものが見えるように改善してくれ」と依頼をかける際に、現地側は必ずなぜそのような事が必要なのかを聞く。
その機能に対して懐疑心を持っているわけではなく、その要望を実現するにはどうしたらいいのかをプロダクトの観点から見ようとしているのである。
それは他と代替性がないか、ちょっとした工夫で実現可能か、作るとしたら最も早く作るにはどうすれば良いか、もしそれが困難なものである場合、果たしてそうまでして作る意味があるものなのか。そういった事を思考しているのだ。
このあたりは、密なコミュニケーションを取るようになってからでないと、なかなか実態が見えてこないものである。
ちなみに、タルモンはバイバーを去りタクシー配車アプリJUNOに身を移してからは、一切ゲームをやらなくなった。そして、すでにメッセアプリ業界への興味は薄れている。この切り替えはすごいなと思う。
次回は、イスラエルの様々なアントレプレナーとの縁をつないでくれた大切な仲間について紹介したい。
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